『罪と罰』上下 ドストエフスキー ★★★★★(満点)
鋭敏な頭脳をもつ貧しい大学生ラスコーリニコフは、一つの微細な罪悪は百の善行に償われるという理論のもとに、強欲非道な高利貸の老婆を殺害し、その財産を有効に転用しようと企てるが、偶然その場に来合わせたその妹まで殺してしまう。この予期しなかった第二の殺人が、ラスコーリニコフの心に重くのしかかり、彼は罪の意識におびえるみじめな自分を発見しなければならなかった。
不安と恐怖に駆られ、良心の呵責に耐えきれぬラスコーリニコフは、偶然知り合った娼婦ソーニャの自己犠牲に徹した生き方に打たれ、ついに自らを法の手にゆだねる---ロシヤ思想史にインテリゲンチャの出現が特筆された1860年代、急激な価値転換が行われる中での青年層の思想の昏迷を予言し、強烈な人間回復への願望を訴えたヒューマニズムの書としての不滅の価値に輝く作品である。
長いこと積んであったドストエフスキーの作品。ようやく読む事ができました。まず言いたいのは、思っていたより難しくはないという事。なんてゆうかもっと哲学とか難しい思想とかが書いてあると想像してたんですよね~。もちろん、登場人物たちの名前が長くてややこしかったりするんだけれども。。それさえ乗り切れば、ラスコーリニコフが一体どうなっちゃうんだろう?という好奇心でどんどん読み進める事ができます。
主人公のラスコーリニコフは、貧しくて、資金がないために大学を中退し、家庭教師のアルバイトもやめてしまって、ずっと狭い部屋に閉じこもっていました。そして、アリョ-ナ・イワノーヴナという名の強欲な金貸しの老女を殺す決心をします。その理由は、もちろん貧しくてお金が欲しいからというものですが、もう一つの理由は、強欲な老女がお金を持っていても国はちっとも良くならないけど、ラスコーリニコフがそのお金で大学を卒業して、立派な人間になったあかつきには、沢山の貧困の家庭を救うことが出来るんだ!という事。つまり、偉人であるナポレオンのように、大きな目的に向かう時には、小さいもの(老女のこと)は犠牲にするし、その存在すらも考えない、という事なのです。「一人殺せば悪人だが、百人殺せば英雄」みたいなイメージを持っているんです。 老女には、腹違いの妹のリザヴェ-タがいるんですが、リザヴェータは老女に朝から晩までこき使われているんです。しかも、老女はもし自分が死んだ後、遺産はリザヴェータには一銭も残さないようにしているんです。なのでラスコーリニコフは、リザヴェータがいない隙をみはからって計画を立てて老女を斧で殺すのですが、殺した途端に、あたふたしてしまって、部屋の鍵もかけずに老女の部屋をあさって、いくつかの質草と老女の首にかかっていた財布をコートのポケットにいれます。そうこうしているうちに、リザヴェータが帰ってきてしまい、やむなくリザヴェータも斧で頭をかち割ります。
最初から最後まで、テンションがとにかく高くて、工藤精一郎氏の訳は上手だな、すごいなと感心しちゃいます。ここで面白いのは、せっかく殺人までして盗んだのに、財布や質草を中身を確かめもせずに、路地の石の下に隠すんです。で、手足はガクガクと振るえ、顔は蒼白で、食事もあまり摂らなくなってしまいます。ラスコーリニコフの周りの人々は、「どうしたんだい?気でも違ったかい?とにかく休めよ」と心配しますが、ラスコーリニコフは、自分の犯罪がばれやしないか、ばれた所でどうだというのだ、とぐるぐる考えて、むやみに外出したり、ぶつぶつと独り言を繰り返すようになるんです。
ラスコーリニコフ以外の登場人物たちも、とても興味深かったな。せっかく仕事に就いたのに、すぐに辞めて飲んだくれては奥さん(カテリーナ・イワノーヴナ)に体罰を受けるマルメラードフ。しかも、奥さんに体罰を受ける事が「嬉しいんですよ!」なんて言っちゃう。その奥さんは、元々はお嬢様だったんですけど、夫がこんな風で、貧しくなり、どんどん精神が壊れていってしまいます。その描写がリアルでした。(子供たちを路上で踊ったりさせてお金をもらおうとしたり)。そして、その奥さんにとっては腹違いの娘になるんですが、ソーニャという心の美しい娘さんが登場します。ソーニャは、父親が全くあてにならないから、自分を殺して娼婦をしているんです。義理の姉妹を食べさせる為に。この信心深いソーニャとラスコーリニコフは、後半辺りから、絆を強めていきます。 ラスコーリニコフとソーニャの関係だけをたどっていくと、かなりロマンチックな恋愛物語ともとれるんですよね。最後の方で、ラスコーリニコフが自首するかどうか?という場面でも、ソーニャ次第みたいな感じを受けました。
なんだか不憫だったのは、ラスコーリニコフの母親と妹かな。母親の名前はプリへ-リヤ・アレクサンドロヴナ。妹の名前はアヴドーチヤ・ロマーノヴナ(ドゥーニャ)。妹・ドゥーニャが婚約したのを機に、期待の星であるラスコーリニコフが住むペテルブルグを訪ねたのに、ラスコーリニコフは殺人の事で頭が一杯で、冷たくあたってしまうんです。もうこの母親が本当に息子を心から愛しているという事が行間から溢れ出てきて胸が切なくなりました。 まあ、ドゥーニャにとっては、結婚しようとしていたルージンというお金持ち(成金)が本当はすごくケチで嫌な奴だと、兄の洞察で分かったから、良かった面もあるのかも。
ラスコーリニコフと警察官のポルフィーリィ・ペトロ-ヴィチとの心理戦はミステリーとして、どきどきしながら読みました。読みながら、いつラスコーリニコフが自白しちゃったらどうしようと不安になるようなやりとりなんですが。 友人のラズミーヒンは、唯一、朗らかで元気で健康で、ホッとさせてくれる存在でした。
あまりにも面白かったので、他のドストエフスキーの作品も読んでみたいな~と思っています。

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