『ケッヘル』上下 中山可穂
『ケッヘル』上下 中山可穂 ★★★★★(満点)
ケッヘル番号が、わたしをこの世の果てまで連れてゆく。モーツァルトの音楽に取り憑かれた男と、過去の亡霊から逃げ続ける女。出会うはずのない二人の人生が交差した瞬間、狂おしい復讐の幕が上がる。
初中山可穂作品。以前に他のブロガーさんたちが本書をすごく褒めていて、ずっと気になっていた作品。とにかくすごいとしか言いようの無い位、全てがモーツアルト尽くしでした。最初は、ケッヘルという単語が沢山あるモーツアルトの作品の通し番号だという意味も知らずに読み始めたのですが、ぐいぐいと惹き込まれました。
木村伽椰は、ドーバー海峡に面した港町、カレーで、海に向かって一心不乱に指揮棒を振る遠松鍵人という裕福な男性と知り合いになります。伽椰は、もう三年近く海外をてんてんと旅していたのです。決してお金が有り余っての趣味とかではなく、日本に帰りたくても帰れない事情があったのです。でも、そろそろお金も尽きてきたし、日本に帰らなければ・・・と悩んでいた所に、このモーツアルトに心酔している遠松という男性から、ある条件を交換に、日本での住居と指し当たっての仕事を斡旋してもらう事になるのですが・・・。
最初は、色んな国を旅して回っている伽椰が、とても優雅に思えたし、裕福な遠松という男性からも親切にしてもらって、なんてラッキーな女性なんだ、と感じていたのですが、読み進めるうちに、本当にモーツアルトの音楽と一緒に沼の中にズルズルと沈んでいく感覚でした。
本書を読んでいると、嫌でもモーツアルトに詳しくなるし、ものすごーくモーツアルトを聴きたくなります。読み終えた後、すぐにレンタルショップに行って、モーツアルトのCDを借りてきました。売り場でまず驚いたのは、モーツアルトのコーナーには、「音楽療法」のカテゴリが沢山あるという事。モーツアルトの曲は、肉体・精神にとても良い作用を及ぼしてくれるそうです。聴いてみて、なるほどな~と思いました。”フィガロの結婚”というカンツォーナは、とても澄んだ音色だし、”夜の女王のアリア”からは、濃い悲しみと恐怖の音色が響いてきました。でも、なんといっても懐かしかったのが、”ピアノ・ソナタ第15番・第一楽章”ですね~。これは、ピアノ教室の教材に使われているソナチネですね。懐かしいー。
主人公の木村伽椰は、同性愛者なんですが、ほとんど抵抗無く読む事が出来ました。むしろ、遠松鍵人の過去のエピソードを読んでからは、同性愛者のほうが心地よく感じた位。遠松鍵人と、美津子の悲しい愛の物語りは、あまりに残酷すぎて、胸が痛かったです。読みながら泣いて笑ったのは、鍵人の幼少時代の、父親との旅。目的地を決めず、新幹線の列車番号とかをケッヘルの番号に当てはめて次々と旅ををするんです。幼い鍵人は、そんな父親の行動を最初は憎み、不安になり、逃げ出そうとするんですが、父親のふと弱い面を見てしまって、結局逃げ出す事ができないのですね。
伽椰が就職したアマデウス旅行社という会社は、すごく奇妙な旅行社。ものすごく個人的なプライベートに突っ込んだ旅をお世話するんです。この会社に旅をお願い出来るお客様の条件は、モーツアルトを心から愛しているかどうかなんです。ちょっと面白そう。。なんて思っていたんですが、何故か伽椰が受け持つお客が次々に不審な死に方をしてしまうんです。そこにはケッヘルの番号が関係していて。。伽椰の芯の強さ、行動力がすごく良かったな。ひとつ納得できないのは、「もう恋愛はかんべん・・・」という気持ちのはずなのに、安藤アンナにほぼ一目ぼれのような形でアタックしていく所。少しだけ、「え?そんな簡単に?」と思いました。
外国が舞台のお話しは、頭の中でイメージしにくい時があるんですが、本書に限っては、見事にすーっとイメージ出来ました。硬質で繊細な中山さんの筆致が好きです。
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